「ハリ」「たるみ」の相談で、ヒアルロン酸の注入が選択肢に挙がることは少なくありません。一方で、頻度はまれとされるものの、注入した材料が血管に関わって起きる合併症が国内外で報告されています。この記事で整理するのは次の4点です。①国内で承認された注入材とそうでないものの区分、②血管に関わる合併症として何が知られているか、③溶解に使われる酵素(ヒアルロニダーゼ)の位置づけ、④受ける前に確認しておきたい視点。特定の施術やクリニックを勧めるものではなく、効果やリスクの現れ方には個人差があります。
ヒアルロン酸の注入材は「医療機器」として扱われている
美容目的で顔に入れるヒアルロン酸は、医薬品ではなく医療機器として扱われます。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医療機器データベースには「ヒアルロン酸使用軟組織注入材」という一般的名称が置かれており、国内で承認を受けた製品はこの区分に登録されています。承認された製品には添付文書があり、使用目的、注入できる部位、禁忌・禁止事項が定められています。
一方、海外で流通している製品を医師が個人輸入して使うケースもあります。この場合は国内で承認されていない医薬品等の使用にあたり、厚生労働省の医療広告ガイドラインでは、入手経路、国内で承認された同等品の有無、諸外国における安全性に関する情報を示すことが求められています。「何を使うのか」を説明してもらえる前提は、制度の側に用意されているということです。
下の表は、注入に使われるものの区分を並べたものです。どれかが優れている・劣っていると示すものではなく、混同されやすい区分を整理するためのものです。
| 区分 | 国内の承認 | 体内での扱われ方 | 確認しておきたいこと |
|---|---|---|---|
| 国内で承認されたヒアルロン酸注入材 | 医療機器として承認あり | 時間をかけて分解・吸収される | 製品名と、添付文書に書かれた使用目的・部位 |
| 医師の個人輸入による海外製の注入材 | 承認なし(未承認) | 製品により差が大きい | 入手経路/国内承認品の有無/海外での安全性情報 |
| 吸収されにくい充填材(恒久的素材) | 製品により異なる | 長期間とどまる | 後から取り除くことの難しさ |
| 自分の脂肪を注入する方法 | 自家組織のため承認の枠組みが異なる | 一部が定着し、一部は吸収される | 採取する側の負担と、定着量のばらつき |
| 幹細胞や培養上清液を併用するとされる施術 | 幹細胞は再生医療等安全性確保法の対象/培養上清液は承認医薬品なし | 内容が一様でない | 提供計画の届出の有無と、未承認である旨の説明 |
血管に関わる合併症として、何が知られているか
注入した材料が血管の中に入ったり、血管を外から圧迫したりすると、その先に血液が届きにくくなることがあります。報告されている初期のサインとしては、注入時や直後の強い痛み、皮膚の色が白っぽくなる・まだら状や網目状に見える、時間が経ってから紫色や黒っぽい変化が出る、といったものが挙げられています。顔面の動脈は目のまわりの血管と行き来があるため、ごくまれに視覚に関わる症状が報告されることもあります。
これらが必ず施術の直後に出るとは限らない点も報告されています。数時間から数日後に症状が現れた例もあるため、異変を感じたときにすぐ連絡できる窓口があるか、夜間や休日はどうなるのかという体制面が、実務的には大きな意味を持ちます。
「まれ」の中身が分かりにくい理由
合併症の頻度は高くないとされますが、正確な発生率を示すのは簡単ではありません。美容目的の注入は自由診療が中心で全国を網羅する症例登録の仕組みがないこと、軽い症状は記録に残りにくいこと、製品・部位・手技が多様でひとまとめに数えにくいこと。公表された数字を見るときは「どの範囲を数えたものか」を確かめる必要があります。
参考として、国民生活センターが公表している美容医療サービスに関する相談件数(PIO-NET登録分)は、2023年度が6,281件、2024年度が10,744件、2025年度が7,944件とされています(2026年度は同年5月31日時点で735件)。ただしこれは合併症の件数ではなく、契約・解約や説明不足、広告に関する相談も含めた全体の数字です。
溶解に使われる酵素の位置づけ——「後から戻せる」と一律には考えない
ヒアルロン酸は分解酵素(ヒアルロニダーゼ)で分解できる性質があり、この「溶かせること」が語られやすい特徴です。ただし、前提がいくつかあります。「溶かせるから安心」という説明だけで判断しないほうが現実的です。
- 国内では、美容目的で注入したヒアルロン酸を溶かすことを効能として承認された製剤を、公的なデータベース上で確認することができません。海外製品を個人輸入して用いる場合は、未承認医薬品の使用にあたります。
- 酵素に対するアレルギー反応の可能性が指摘されており、使用前の確認が必要とされています。
- 製品の種類や入っている量、経過した時間によって、分解のされ方には差があります。思いどおりの形に戻るとは限りません。
- ヒアルロン酸以外の充填材には作用しません。何が入っているか分からない場合、対応の選択肢が狭まります。
幹細胞やエクソソームを併用するとされる場合
注入にあわせて幹細胞や培養上清液(エクソソーム)を使うとする案内もありますが、この二つは法的な扱いが異なります。細胞を加工して用いる医療は再生医療等安全性確保法の対象で、提供には再生医療等提供計画の提出などの手続きが必要です。一方、培養上清液(エクソソーム)は、現時点で国内に承認された医薬品がなく、細胞そのものを投与するわけではないことから同法の対象外として整理されています(厚生労働省 令和6年7月31日付事務連絡)。
どの枠組みで行われている医療かによって、届出や説明に求められる内容も変わります。ひとつの施術として束ねて案内されているときほど、内訳を確認する意味があります。
受ける前に確認しておきたい視点
特定の方法を勧めるものではなく、説明を受けるときの手がかりです。
- 使用する製品の名称と、国内で承認されたものかどうか
- 注入する部位と量、そこを選ぶ理由
- 想定される合併症と、その場合に誰がどう対応するのか
- 施術後に異変を感じたときの連絡先(夜間・休日を含む)
- 総額と、追加の費用が生じる条件
- その場で契約を決めるよう促されていないか。美容医療の契約には、期間や金額の条件によって特定商取引法のルールが関わる場合があり、消費者庁や国民生活センターが考え方を示しています
よくある質問
Q. ヒアルロン酸の注入は「安全な施術」と考えてよいですか。
一言で言い切れるものではありません。国内で承認された製品があり広く行われている一方、血管に関わる合併症が報告されているのも事実です。使う製品や部位、量、体制によって状況は変わり、起こり方には個人差があります。確率が低いことと、自分に起きないことは別の話として受け止めておくのが現実的です。
Q. 血流が妨げられているときのサインはありますか。
注入時や直後の強い痛み、皮膚が白っぽくなる、まだら状・網目状の色の変化、時間が経ってからの紫色や黒っぽい変化、視界の異常などが挙げられています。ただし、腫れや内出血など経過として想定される変化と見分けがつきにくいこともあります。迷ったときは自己判断せず、施術を受けた医療機関に連絡する流れを事前に確認しておきましょう。
Q. 入れたヒアルロン酸は必ず溶かせますか。
必ずしもそうとは限りません。分解酵素が作用するのはヒアルロン酸に対してであり、他の充填材には働きません。また、製品の種類や量、経過時間によって分解のされ方は異なり、元どおりの状態に戻ることを保証するものではありません。国内での承認状況についても、前述のとおり確認が必要です。
Q. 施術後はどのくらい様子を見ればよいですか。
一律の目安はありませんが、当日ではなく数日後に症状が現れた例も報告されています。経過観察の期間と、どの段階でどこに連絡するのかを、施術前に具体的に示してもらっておくと判断しやすくなります。
Q. 価格が安いほど危険ということですか。
価格だけでリスクの高低を判断することはできません。ただし、差が何から生じているのか——使用する製品、診察や経過観察に充てる時間、万一のときの体制など——を尋ねることには意味があります。表示金額に何が含まれ、何が含まれないのかもあわせて確認しておくと、後からの行き違いを減らせます。
参考にした公的情報
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)|承認された医療機器・医薬品を検索できます
- 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」|未承認医薬品等に関する情報提供の考え方
- 国民生活センター「美容医療サービス(各種相談の件数や傾向)」|相談件数の推移と事例
- 厚生労働省「再生医療等提供計画の提出等について」|幹細胞を用いる医療の手続き
- 厚生労働省 事務連絡(令和6年7月31日・培養上清液等の取扱い)
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本記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療や医療機関を推奨するものではありません。ここで扱う美容医療・再生医療の多くは公的医療保険が適用されない自由診療で、費用・主なリスク・副作用は医療機関により異なります。効果には個人差があり、個別の診断・治療の可否は医師の診察により判断されます。
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