「切らないたるみ治療」として紹介されることが多い糸リフト(スレッドリフト)は、顔の皮下に吸収性の糸を通す自由診療の施術です。説明のなかでは「物理的に引き上げる」話と「糸の周囲でコラーゲンがつくられる」話が同時に語られることが多く、どこまでが確かめられていて、どこからが仮説なのかが見えにくくなりがちです。
この記事で整理することは、(1)糸リフトが顔に対して何をしているのか、(2)使われる糸の素材の区分、(3)「コラーゲンを刺激する」という説明の根拠と限界、(4)公的資料から読み取れる安全性・契約面の注意点、の4点です。特定の治療や医療機関を推奨するものではなく、変化の程度や感じ方には個人差があります。
糸リフトは、顔に対して何をしている施術なのか
糸リフトでは皮膚の下に吸収性の糸を通します。表面にコグ(とげ)やらせん状の加工がある糸では、その引っかかりで組織を目的の方向へ移動させ、固定することがねらいとされています。これは物理的な移動の話です。
もう一つ、糸が入ったあとに周囲で起きる組織の反応に期待する説明があり、「ハリが出る」といった表現はここに由来します。性質の異なる2つの説明が混ざりやすいため、「いま聞いているのはどちらの話か」を分けて確認すると、期待のずれが起きにくくなります。
使われる糸の素材は、大きく3系統に分けて説明される
糸リフトに使われる糸には、外科手術の吸収性縫合糸と同じ系統の高分子が用いられます。以下は区分の説明であり、どれかを推奨するものではありません。同じ素材でも製品ごとに形状・太さ・加工が異なり、吸収期間として示される数値にも幅があるため、実際に使う製品の数値と根拠は医療機関で確認してください。
| 素材 | 略称 | 一般に説明される吸収のめやす | 補足 |
|---|---|---|---|
| ポリジオキサノン | PDO | およそ6〜8か月 | 吸収性縫合糸として長く使われてきた素材。報告の数も比較的多い |
| ポリ乳酸 | PLLA/PLA | およそ1年〜1年半 | 分解が比較的ゆるやかと説明される |
| ポリカプロラクトン | PCL | およそ1年〜2年 | 3つのなかでは分解が最も遅い部類とされる |
吸収の遅さが、そのまま結果の持続の長さを意味するわけではありません。分解までの時間は素材の性質の話で、見た目の推移は組織の状態や加齢の進み方など別の要因にも左右されます。
「コラーゲンを刺激する」はどこまで確かめられているのか
体内に異物が入ると周囲に細胞が集まり、結合組織がつくり直される反応が起こります。創傷治癒の過程として知られている現象で、「コラーゲンが増える」という説明もこれを根拠にしています。
一方で、ヒトの顔において、どの深さにどれだけのコラーゲンが、どれくらいの期間保たれるのかを定量的に示したデータは限られています。「反応が起こること」と「見た目の変化が一定期間続くこと」の間には、まだ埋まっていない距離があります。そのため「必ずハリが戻る」といった言い切りはできず、変化の程度には個人差があります。
2026年時点の研究で示されていること、いないこと
吸収性スレッドリフトについては、2025年に皮膚外科の専門誌「Dermatologic Surgery」へ系統的レビュー(複数の研究をまとめて評価した総説)が掲載されています。12件の研究・あわせて818例が対象で、評価の中心はポリジオキサノンによる吊り上げと、ポリ乳酸/ポリカプロラクトンの吸収糸でした。
この総説では、報告された合併症は軽度のものが中心だったとされる一方、追跡期間は最長でも2年で、長期的な有効性を示すデータは不足していると明記されています。短期の報告が積み上がっていることと、何年先まで続くかが分かっていることは別の問題です。「◯年もつ」という説明に出会ったら、それが製品の吸収期間の話なのか、研究で測られた結果なのかを確認したいところです。
また、使われる糸が国内で医療機器として承認されたものかどうかは製品によって異なります。未承認の医薬品・医療機器を用いる自由診療について情報提供する場合、医療広告のルール上は未承認である旨などの明示が求められています。
幹細胞やエクソソームとは、制度上の位置づけが違う
たるみの話題では、糸リフトと幹細胞治療、エクソソーム(幹細胞培養上清液)が同じ文脈で並べて紹介されることがあります。しかし制度上の扱いは別物です。
- 糸リフト:細胞そのものを用いないため、再生医療等安全性確保法の対象ではありません。
- 幹細胞を投与する治療:同法の規制対象で、提供には再生医療等提供計画の届出など定められた手続きが必要です。
- エクソソーム(培養上清液):現行の同法の対象外で、承認された医薬品は存在しません。厚生労働省は令和6年7月31日の事務連絡で注意喚起を行っています。
契約と費用で、実際に相談が多いこと
国民生活センターに寄せられた美容医療サービスの相談は、2024年度が10,744件、2025年度が7,944件と高い水準が続いています。契約を急がされる、割引やモニター契約を勧められる、リスク説明が十分でない、仕上がりの左右差や皮膚障害といった危害、などが挙げられています。2026年1月には男性からの相談増加も公表されました。
糸リフトは本数で総額が変わるため、広告の単価と見積りが離れやすい構造があります。同センターは「不安をあおられたり、大幅な割引を提案されても、即日契約・施術をしない」よう呼びかけています。一定の条件を満たす契約では、契約書面を受け取った日から8日間のクーリング・オフが適用される場合があります。相談先は消費者ホットライン「188」です。
制度の側も動いています。厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」は令和6年11月に報告書をまとめ、年1回の安全管理措置の報告、関係学会によるガイドライン策定、医療広告規制の強化といった対応策を示しました。
受ける前に確認しておきたい5つの視点
- 使用する糸の素材・製品名・本数と、国内での承認状況
- 期待される変化の説明が「個人差がある」前提か。断定的な言い切りになっていないか
- 腫れ・内出血・左右差・つっぱり感・糸の露出など、起こりうることとその対応
- 維持のための追加施術の頻度と総額、解約条件、返金の扱いが書面で確認できるか
- 施術後に不調が出たときの連絡先と診療体制(アフターケア)
よくある質問
Q1. 「切らない」施術なので、リスクは小さいと考えてよいですか
切開を伴わないことと、リスクがないことは別です。前述の系統的レビューでは合併症は軽度のものが中心とされていますが、腫れ、内出血、痛み、左右差、糸の露出や感染などが起こりうることは各種の報告で触れられています。事前に対応まで聞いておくことが現実的です。
Q2. 効果はどのくらい持続しますか
期間を一律に示すことはできません。2025年の系統的レビューでは、追跡期間は最長でも2年で、長期的な有効性のデータは不足していると明記されています。数字が示されている場合は、その根拠が製品の吸収期間なのか研究の測定結果なのかを確認してください。持続や感じ方には個人差があります。
Q3. HIFUやヒアルロン酸注入とは何が違いますか
働きかけ方が異なります。糸リフトは糸という物体を挿入して組織を移動させる方法、HIFUは外から熱エネルギーを集めて組織に変化を起こす方法、ヒアルロン酸注入は容積を足す方法、と整理できます。優劣の比較ではなく、目的としている変化の種類が違うものとして理解するのが実際的です。
Q4. 糸は体に残りませんか。保険は使えますか
多くは吸収性の糸で、時間の経過とともに分解されると説明されていますが、非吸収性の糸を用いる方法も存在するため、どちらを使うのかは事前に確認したい情報です。また美容目的の糸リフトは自由診療にあたり、費用は全額自己負担、価格は医療機関ごとに設定されます。
参考にした公的情報
- 国民生活センター「美容医療サービス」(相談件数と傾向)
- 同「男性の美容医療トラブルも増加!」(2026年1月20日)
- 厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会 報告書」(PDF)
- 厚生労働省「病院等の広告規制について」
- 厚生労働省 事務連絡(令和6年7月31日/培養上清液・PDF)
- Update on Absorbable Facial Thread Lifts(Dermatol Surg. 2025)
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本記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療や医療機関を推奨するものではありません。ここで扱う美容医療・再生医療の多くは公的医療保険が適用されない自由診療で、費用・主なリスク・副作用は医療機関により異なります。効果には個人差があり、個別の診断・治療の可否は医師の診察により判断されます。
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