美容医療を受けるかどうかを考えるとき、最初に見るのはクリニックのウェブサイトや口コミという人が多いと思います。ただしそこにある情報は、提供する側が選んで出したものです。第三者が確かめた情報ではありません。2025年12月に成立した改正医療法は、この状況に「行政への報告」と「行政による公表」という仕組みを新しく加えました。
この記事で整理するのは、2026年10月時点で決まっていることとまだ決まっていないことの切り分けです。制度の説明であり、特定の施術やクリニックをすすめるものではありません。施行前の内容を含むため、実際の運用は今後の政令・省令で変わる可能性があります。
2025年12月の改正医療法が、美容医療に何を加えたのか
医療法等の一部を改正する法律は、2025年(令和7年)12月5日に成立し、同年12月12日に法律第87号として公布されました。このうち美容医療に関わるのが、改正医療法第6条の12の2として新設された報告制度です。
条文の骨格はこうなっています。美容医療を行う医療機関の管理者は、医療の安全の確保に必要な情報として厚生労働省令で定める事項を、所在地の都道府県知事に報告しなければなりません。都道府県知事は、報告された内容のうち医療の安全の確保にとくに必要な事項として省令で定めるものを公表しなければならない、とされています。報告をしない場合や虚偽の報告をした場合には、都道府県知事が是正を命じることができます。
注目したいのは、報告だけでなく公表までが知事の義務として書かれている点です。これまで患者側が外から確かめる手段をほとんど持てなかった項目が、行政の側から出てくる見込みになりました。
報告されると見込まれている項目
何を報告するかは省令に委ねられており、2026年10月時点で省令は公表されていません。ただし法案の立案時に総務省へ提出された「規制の事前評価書」には、想定されている報告事項が書かれています。
- 診療に従事する医師の専門医資格の有無
- 診療に関する研修の実施状況
- 医療安全のための指針の策定状況
- 安全管理措置の実施状況
- 副作用や合併症が起きたときに患者が相談できる体制(アフターフォロー体制)
報告の頻度は年1回、報告先は都道府県知事等(診療所の所在地が保健所設置市または特別区であれば、その市長または区長)と記載されています。公表の対象としては、アフターフォロー体制など必要な情報が挙げられています。いずれも事前評価書の段階の記載であり、最終的な省令で項目が増減する可能性があります。
いま確認できることと、施行後に確認できる見込みのこと
情報の種類ごとに、現在の確認手段と、報告制度の施行後に見込まれる状況を並べます。確認経路の違いを説明するための整理であり、どれかの方法や施術をすすめるものではありません。
| 確認したいこと | 2026年10月時点の確認手段 | 報告制度の施行後に見込まれること |
|---|---|---|
| 医師の専門医資格 | 院内掲示やサイトの記載(自己申告)、各学会の専門医検索 | 行政への報告事項に含まれる見込み |
| 医療安全の指針・安全管理措置 | 外から確認する手段はほとんどない | 報告事項に含まれる見込み |
| 副作用時の相談体制 | カウンセリングで個別に尋ねる | 公表対象の候補として挙がっている |
| 研修の実施状況 | 外から確認する手段はほとんどない | 報告事項に含まれる見込み |
| 広告表現が適切か | 医療広告ガイドラインと照らす、自治体の窓口に相談 | 従来どおり広告規制で対応 |
右の列を「見込み」と書いているのは、省令が出るまで確定ではないからです。
報告制度を待たずに、2026年に先に動いた部分
ひとつは診療録(カルテ)です。2026年2月、医師法施行規則と歯科医師法施行規則の改正案についてパブリックコメントが実施されました。カルテに記載すべき「病名及び主要症状」について、美容医療を行う場合には患者の主訴や希望する治療の内容が含まれることを明確にする、という内容です。美容医療では客観的な症状ではなく本人の希望から治療が選ばれるという特性があり、保健所等の立入検査で指導の実効性を確保することが目的だと説明されています。公布は2026年3月、施行は公布の日とされていました。
もうひとつはオンライン診療です。改正医療法でオンライン診療が法律上に位置づけられ、この部分は2026年4月1日に施行されています。美容領域でもオンラインでの相談や処方が行われており、間接的に関係します。
施行日がまだ決まっていない、という事実の読み方
報告制度の施行期日は「公布後2年以内に政令で定める日」とされています。公布が2025年12月12日ですから、遅くとも2027年12月11日までには施行されることになりますが、具体的な日付は2026年10月時点で決まっていません。
つまり、いま美容医療を検討している人が、この制度による公表情報を使えるわけではありません。「2027年までに変わる」という話であって、今日の判断材料が増えたわけではない、という点は押さえておきたいところです。
幹細胞やエクソソームは、別の経路で確認する
美容目的であっても、幹細胞を用いる治療は再生医療等の安全性の確保等に関する法律の対象です。提供にあたっては再生医療等提供計画の届出などが必要で、届け出られた計画は再生医療ポータルの提供機関検索から確認できます。今回の報告制度とは別の仕組みです。
一方、エクソソーム(幹細胞培養上清液)を用いる施術については、2026年10月時点で国内に承認された医薬品がありません。厚生労働省は2024年(令和6年)7月31日の事務連絡で、細胞から分離した上清等を用いる行為の取り扱いについて注意を促しており、日本再生医療学会もこれを受けた案内を出しています。効果を断定する説明や、承認済みであるかのように読める表現には注意が必要です。
制度が整うまでに、自分で確かめられること
- 合併症や副作用が起きたとき、誰がどこまで対応するのかを、契約前に文書で確認する
- 広告や説明で効果が断定されていないか、体験談やビフォーアフターの使い方が医療広告ガイドラインに沿っているかを見る
- 契約が長期・高額になる場合、特定商取引法の特定継続的役務提供に当たるか、クーリング・オフの説明があるかを確認する
- 幹細胞を用いる治療なら、再生医療等提供計画が届け出られているかを提供機関検索で確かめる
これらは結果を保証するものではありません。効果やリスクの出かたには個人差があり、同じ施術でも人によって経過は異なります。
よくある質問
報告制度が始まれば、クリニックごとのトラブル件数が公表されますか
2026年10月時点で公表項目は確定していません。事前評価書に挙がっているのは専門医資格の有無、安全管理の体制、アフターフォロー体制といった体制に関する情報で、個別のトラブル件数の公表は明示されていません。省令の内容を待つ必要があります。
公表はどこで行われるのですか
都道府県知事が公表すると条文に書かれていますが、媒体や方法は省令等に委ねられています。既存の医療機能情報提供制度に近い形になるのか、別の枠組みになるのかも、現時点では公表されていません。
すべての美容クリニックが対象ですか
対象となる医療機関の範囲も厚生労働省令で定めるとされています。「美容を目的とした治療」を行う医療機関が想定されていますが、どこまでを含めるかの線引きは公表されていません。
報告しなかった場合はどうなりますか
報告をしない、または虚偽の報告をした場合、都道府県知事が報告や内容の是正を命じることができると規定されています。命令に従わなかったときの扱いは、関連規定の整備とあわせて確認が必要です。
いま検討している施術について、公的な相談先はありますか
広告や説明の内容に疑問がある場合は、所在地の保健所や都道府県の医療安全相談窓口が窓口になります。契約や解約に関することは、消費生活センター(消費者ホットライン188)や国民生活センターの情報が参考になります。
参考にした公的情報
- 総務省:規制の事前評価書(医療法等の一部を改正する法律案/美容医療を行う医療機関の報告制度等の新設)
- 厚生労働省:医療法等の一部を改正する法律の成立について(第122回社会保障審議会医療部会 資料)
- 厚生労働省:医療法における病院等の広告規制について
- 厚生労働省:再生医療等提供計画の提出等について
- 厚生労働省:事務連絡(令和6年7月31日/エクソソーム・培養上清液)
- 再生医療ポータル:提供機関検索
- 消費者庁:特定商取引法ガイド(特定継続的役務提供)
- 国民生活センター:美容医療のクーリング・オフ
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本記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療や医療機関を推奨するものではありません。ここで扱う美容医療・再生医療の多くは公的医療保険が適用されない自由診療で、費用・主なリスク・副作用は医療機関により異なります。効果には個人差があり、個別の診断・治療の可否は医師の診察により判断されます。
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