「肌の老化は、じつは弱い炎症がずっとくすぶっているせいではないか」——そう考えるインフラメイジング(inflammaging=炎症老化)という言葉を、化粧品や美容医療の説明で見かける機会が増えました。ただ、この言葉は本来、老年医学の研究から出てきた概念で、美容の宣伝文句として使われるときには意味がずれていることもあります。

この記事では、①インフラメイジングとは何を指す言葉なのか、②よく混同される「老化細胞・SASP」との関係、③皮膚で何が起きていると報告されているのか、④「炎症年齢を測る」試みはどこまで進んでいるのか、⑤再生医療・美容医療の文脈でどこに線を引いて読むべきか、を整理します。特定の商品や施術をすすめるものではなく、情報の読み方を確認するための記事です。

インフラメイジングとは何を指す言葉か

インフラメイジングは、感染症や自己免疫疾患といったはっきりした原因がないのに、加齢とともに全身で弱い炎症が慢性的に続く状態を指す概念です。2000年ごろに提唱された比較的新しい考え方で、当初から「老化そのものというより、老化と病気をつなぐ土台ではないか」という文脈で議論されてきました。

背景として指摘されているのは、老化した細胞が出す炎症性の物質、体内の「掃除機能」の低下、ミトコンドリアの機能低下、腸内細菌叢の変化、代謝の負荷などです。ただし、これらのどれがどの程度効いているのかは人によって差が大きく、近年は「一様に進む現象ではなく、生活環境や集団によってかなり文脈依存的だ」とする報告も出ています。「歳を取れば誰でも同じように炎症が上がる」と単純化しないほうが実態に近い、というのが現在の見方です。

「老化細胞・SASP」とはどう違うのか

美容の文脈では、インフラメイジング/老化細胞(senescent cell)/SASP/酸化ストレスがひとまとめに語られがちですが、指している階層が違います。以下は用語の区分を整理したもので、どれかが優れている・どれかを選ぶべきという意味ではありません

用語指しているもの観察される単位美容の文脈での注意
老化細胞(細胞老化)分裂を止めたまま生き残っている個々の細胞細胞「除去できる」とうたう商品・施術の裏づけは検証段階のものが多い
SASP老化細胞が周囲に出す炎症性物質・分解酵素などの分泌現象細胞〜組織分泌の中身は状況で変わり、良し悪しを一括りにできない
インフラメイジング加齢に伴い全身で続く弱い慢性炎症という状態個体(全身)もともと全身の概念で、肌だけの指標ではない
酸化ストレス活性酸素と抗酸化のバランスが崩れた状態細胞〜個体炎症と関連するが同義ではない

皮膚では何が起きていると報告されているか

皮膚は紫外線・乾燥・摩擦・常在菌など外からの刺激を絶えず受けているため、慢性炎症の研究対象になりやすい臓器です。炎症性のサイトカインがコラーゲンを分解する酵素(MMP)の発現を高め、コラーゲンの分解が進みやすくなる——という経路は、以前から皮膚老化の説明に使われてきました。

近年は、免疫細胞であるマクロファージに注目した報告もあります。炎症を進める側(M1的)と、収束させ組織修復に働く側(M2的)のバランスが崩れると炎症が終わらず、慢性化につながるのではないか、という考え方で、国内の化粧品企業からも関連する研究発表が出ています。ただし、こうした知見の多くは細胞や動物、あるいは限られた条件での観察に基づくもので、「これを整えれば見た目が若返る」と言い切れる段階ではありません。効果には個人差があります。

「炎症年齢を測る」試みはどこまで進んでいるか

研究の世界では、炎症関連の指標をまとめて年齢のように表す試み(AIで算出する炎症指標や、NMRで測る糖タンパク関連の指標など)が報告されています。ただし、これらは研究段階のもので、国内で診断や治療効果の判定に使える確立された検査として位置づけられているわけではありません

自由診療で「炎症年齢」「老化度」といった数値を提示される場合は、何を測っているのか、その数値が何を意味し、何を意味しないのか、測定方法に公的な裏づけがあるのかを、契約前に説明してもらうとよいでしょう。数値の改善が見た目や健康の改善と同じではない点にも注意が必要です。

再生医療・美容医療の文脈での線引き

慢性炎症を切り口に、幹細胞治療やエクソソーム(培養上清液)を用いた施術が説明されることがあります。制度上の位置づけは次のとおりです。

幹細胞を用いる治療は再生医療等安全性確保法の対象で、提供にあたって再生医療等提供計画の届出などの手続きが必要です。届出の有無は再生医療ポータルの提供機関検索などで確認できます。エクソソーム(培養上清液)を用いる施術は現行法上この枠組みの対象外とされ、国内で承認された医薬品も存在しません。2024年7月には、安全性の確保について注意を促す事務連絡も出されています。「炎症を抑えて若返る」といった断定的な表現が使われている場合は、その根拠がどこにあるのかを確かめてください。

開発中・研究段階の技術に触れた広告も見かけますが、国内で承認された医薬品ではない/有効性と安全性の検証が途中であるものは、そのように読む必要があります。医療広告には規制があり、体験談やビフォーアフター写真を用いた誘引は制限されています。

よくある質問

Q. 慢性炎症は血液検査でわかりますか?

A. 一般的な炎症の指標(CRPなど)はありますが、これは感染症や明らかな炎症を捉えるための検査で、インフラメイジングという概念をそのまま数値化したものではありません。数値が正常でも概念上の慢性炎症が否定されるわけではなく、逆に少し高いからといって老化が進んでいると判断できるものでもありません。気になる場合は自己判断せず、医療機関でご相談ください。

Q. 抗炎症成分の入った化粧品を使えば炎症老化を防げますか?

A. 化粧品は、あくまで肌を健やかに保つためのものとして位置づけられており、全身の慢性炎症を治療するものではありません。刺激を減らしバリアを整えることは合理的ですが、「炎症老化を止める」といった表現がある場合は、何を根拠にした説明なのかを確認してください。感じ方や合う合わないには個人差があります。

Q. 睡眠不足や食生活は関係しますか?

A. 睡眠、食事、運動、喫煙、体重といった生活要因が慢性炎症の指標と関連するという報告は多くあります。ただし関連が示されていることと、改善すれば肌の見た目が変わることは別の話です。生活習慣の見直しは健康面から一般に勧められるもので、美容目的の「確実な対策」として語られるものではありません。

Q. 「炎症を取る点滴」をすすめられました。受けても大丈夫でしょうか?

A. 自由診療の点滴や注射は、内容も価格も施設によってさまざまです。使用する成分が国内で承認された医薬品か、適応外使用にあたるか、想定される副反応、中止したいときの返金や解約の条件を、書面で確認することをおすすめします。複数回のコース契約は特定商取引法の対象になる場合があります。

参考にした公的情報

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広告表現と研究段階の話が混ざりやすい分野です。判断に迷うときは、無料・中立の相談窓口もご利用ください。特定の医療機関をご紹介するものではありません。

本記事について

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療や医療機関を推奨するものではありません。ここで扱う美容医療・再生医療の多くは公的医療保険が適用されない自由診療で、費用・主なリスク・副作用は医療機関により異なります。効果には個人差があり、個別の診断・治療の可否は医師の診察により判断されます。

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