「たるみに超音波を当てる」という施術は、言葉としてはすっかり広まりました。一方で2023年以降、国の事故調査、厚生労働省の通知、2025年の国内承認機器と医療法改正が続き、「だれが・どこで・どの機器で行えるのか」という前提が整理されています。この記事では2026年10月時点で公的資料から確認できる事実をもとに、しくみ/決まってきたこと/混ざりやすい区分/再生医療との線引きを整理します。効果には個人差があり、特定の治療や施設をおすすめするものではありません。
超音波でたるみに働きかける、という考え方
HIFU(高密度焦点式超音波)は、虫眼鏡で光を集めるように超音波を集束させ、皮膚の表面を越えた深い層に熱を加える方式です。熱が加わった組織が収縮し、その後の修復反応でコラーゲンが作り直される——という想定のもとで、しわやたるみの改善を目的に使われてきました。
ただし、熱が「どの深さに」「どれだけ」入ったかは外から見えません。皮下脂肪の厚みや骨格は人によって違い、顔の中でも場所ごとに神経や血管の走り方が変わります。同じ機器・同じ設定でも結果が揃わないのは、この見えなさに由来します。効果の程度や持続にも個人差があります。
日本で何が起き、何が決まってきたのか
この分野は、健康被害の報告が制度を動かしてきた経緯を持ちます。2017年3月、国民生活センターがエステサロン等でのHIFU施術で熱傷や神経損傷を生じた事例を公表しました。
2023年:国の事故等原因調査報告書
2023年3月29日、消費者庁の消費者安全調査委員会がエステサロン等でのHIFU事故の報告書を公表しました。報告されていたのは顔面の麻痺やしびれ、水ぶくれや色素沈着を伴う熱傷、目のかすみなどで、事故の約7割が顔に起き、1か月以上症状が続いた例もあります。
直接の原因は、照射出力が高く安全上の信頼性が低い機器を、解剖学の知識が十分でない者が扱った点とされました。利用者の約6割がリスクを認識していなかったことも指摘され、施術者を医師に限定することを求める意見が厚生労働大臣に示されています。
2024年:厚生労働省がHIFUを医行為と明示
2024年6月7日の厚生労働省通知(医政医発0607第1号)では、医師免許を持たない者がHIFUを人体に照射し細胞に熱凝固を起こさせ得る行為は、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為=医行為にあたるとされました。引き締めやしわ改善を目的とする施術も対象です。
2025年:国内承認された超音波機器と医療法改正
2025年4月、顔面・頸部のしわ改善を目的とする超音波照射器が国内で初めて薬事承認されました。ただしこれは超音波を平行に照射する方式で、一点に集束させるHIFUとは別のしくみです。関連3学会が同月に適正使用指針を共同策定し、研修を修了した医師が医療提供施設で行うこと、眼の周囲などの禁忌部位が示されています。
また2025年12月12日公布の改正医療法では、美容を目的とした医療を行う医療機関が、医療安全の指針・体制や事故防止策を都道府県知事へ報告する制度が法律上に位置づけられました(順次施行)。実態が見えにくかった領域に情報公開の枠組みが入り始めた段階です。
言葉が似ていて混ざりやすいところ
相談の場でよく混ざるのが「超音波」「高周波」「細胞を使うもの」という区分です。以下は違いを整理した区分の説明であり、どれかをおすすめするものではありません。根拠の種類も法的な枠組みも別で、そのまま優劣を比べられるものではありません。
| 区分 | しくみ(想定) | 国内の位置づけ(2026年10月時点) | 確認したい点 |
|---|---|---|---|
| 集束型超音波(HIFU) | 一点に集束させ深い層に熱を加える | 医師免許のない者の施術は医師法違反。医療提供施設で医師が行う | 施術者が医師か、場所が医療機関か、機器が承認済みか |
| 平行照射型の超音波 | 集束させず平行に照射して熱を加える | しわ改善を目的とする機器が2025年4月に薬事承認。学会指針あり | 研修を受けた医師か、禁忌部位の説明があるか |
| 高周波(RF)などの熱系機器 | 電気エネルギーで組織を温める | 機器ごとに承認・未承認が分かれ一律には語れない | 何として承認されているか、適応の範囲 |
| 幹細胞・その分泌物 | 細胞そのもの、または細胞が出す成分を使う | 幹細胞は再生医療等安全性確保法の対象。エクソソーム(培養上清液)は同法の対象外で承認医薬品なし | 提供計画の届出の有無、未承認である旨の説明 |
「再生医療」とは別の枠組みである、という線引き
熱を加えて修復反応を起こす機器の話と、細胞そのものを使う再生医療は、ねらいが似て見えても制度上は別の枠組みです。幹細胞を用いる治療は再生医療等安全性確保法の対象で、提供には再生医療等提供計画の届出などの手続きが必要です。エクソソーム(培養上清液)は現行の同法の対象外にあり、2026年10月時点で承認された医薬品は存在しません。
そのため「機器で土台を整えてから細胞で仕上げる」といった説明では、2つを別々に確かめる必要があります。片方に国の承認や届出があることは、もう片方の裏づけにはなりません。開発中・検証途中の技術については、国内で承認された医薬品・医療機器ではなく検証が途上である旨の説明があるかを見てください。
受ける前に確認しておきたい視点
- だれが・どこで:施術者が医師か(看護師なら医師の指示のもとの診療の補助か)、医療提供施設か。
- 機器の位置づけ:国内で承認された機器か未承認機器か。未承認が直ちに違法とは限りませんが、健康被害の救済制度との関係が変わります。
- 禁忌と有害事象:当てない部位や事前に伝えるべき事柄の問診があるか。熱傷や麻痺が起きたとき、だれが診てどこへ連絡するのかが決まっているか。
- 見込みと契約:何回でどのくらいを想定しているか、個人差がある旨の説明があるか。総額と中途解約の扱い(特定商取引法の特定継続的役務提供にあたる場合、書面交付やクーリング・オフの対象になることがあります)。
よくある質問
エステサロンでHIFUを受けることはできますか
認められていません。2024年6月7日の通知により、医師免許を持たない者がHIFUを人体に照射する行為は医行為とされ、医師法第17条違反にあたります。医師が行う場合も医療提供施設で実施することとされているためです。
家庭用の「セルフHIFU」機器はどう考えればよいですか
家庭用として売られている機器は、医療機器として承認されたものとは別です。出力や照射の深さの表示が実際と一致しているかを利用者が確かめる手立ては、基本的にありません。事故調査が直接原因に挙げた「信頼性の低い機器」と「解剖学の知識が不十分な使用」は、自分で当てる場面にも当てはまります。
2025年に承認された機器があるなら、HIFUも承認されたのですか
別の話です。承認されたのは超音波を平行に照射する方式の機器で、一点に集束させるHIFUとは異なります。「超音波の機器が承認された」という情報が集束型すべての裏づけになるわけではなく、使う機器が何として承認されているか(あるいは未承認か)を個別に確認するのが確実です。
幹細胞やエクソソームと組み合わせると効果が上がりますか
組み合わせによる上乗せ効果を示す確立した根拠は、2026年10月時点で見当たりません。幹細胞を用いる治療は再生医療等安全性確保法の対象で届出などの手続きが必要であり、エクソソームは同法の対象外で承認された医薬品が存在しません。手続きと根拠を別々に確認するのが先になります。
参考にした公的情報
- 消費者庁 消費者安全調査委員会「エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故」事故等原因調査報告書 概要(令和5年3月29日)
- 厚生労働省「医師免許を有しない者が行った高密度焦点式超音波を用いた施術について」(令和6年6月7日 医政医発0607第1号)
- 国民生活センター「エステサロン等でのHIFU機器による施術でトラブル発生!」(平成29年3月2日)
- 厚生労働省「再生医療等提供計画の提出等について」
- 消費者庁 特定商取引法ガイド(特定継続的役務提供)
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本記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療や医療機関を推奨するものではありません。ここで扱う美容医療・再生医療の多くは公的医療保険が適用されない自由診療で、費用・主なリスク・副作用は医療機関により異なります。効果には個人差があり、個別の診断・治療の可否は医師の診察により判断されます。
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