「肌は約28日で生まれ変わる」という説明を聞いたことがある方は多いと思います。その入れ替わりを支えているのが、表皮のいちばん下の層にいる表皮幹細胞です。近年、この表皮幹細胞どうしが「競い合う」ことで肌の質が保たれ、その競争の仕組みが弱まることが皮膚老化の一因になる、という研究が国内の研究グループから報告され、美容分野でも「XVII型コラーゲン(COL17A1)」という名前を目にする機会が増えてきました。この記事では、表皮幹細胞と「細胞競合」の研究で分かっていること・まだ分かっていないことを整理し、美容の文脈でこの言葉が出てきたときに確認しておきたい視点をまとめます。特定の施術や製品を推奨するものではなく、効果の感じ方には個人差があります。
表皮幹細胞とは何か|真皮の線維芽細胞との違い
皮膚は外側から「表皮」「真皮」「皮下組織」の三層に分かれます。表皮の最下層(基底層)には表皮幹細胞があり、分裂して新しい角化細胞(ケラチノサイト)を供給し続けています。供給された細胞は上へ押し上げられながら成熟し、最後は角質となって剥がれ落ちます。これがいわゆるターンオーバーです。
一方、ハリや弾力の話題でよく登場する「線維芽細胞」は真皮にいる細胞で、コラーゲンやエラスチンといった線維を作る役割です。どちらも「肌の若さ」に関わりますが、住んでいる層も役割も異なります。以下は区分の説明であり、どちらかが重要という意味ではありません。
| 項目 | 表皮幹細胞 | 真皮の線維芽細胞 |
|---|---|---|
| いる場所 | 表皮の基底層(基底膜の上) | 真皮(基底膜の下) |
| 主な役割 | 角化細胞を供給し、表皮を入れ替える | コラーゲン・エラスチン等の線維を産生 |
| 関わりやすい悩み | キメ・くすみ・バリア機能・傷の治りにくさ | ハリ・弾力・シワ・たるみ |
| 今回の研究との関係 | COL17A1を介した細胞競合の主役 | 直接の対象ではない |
「細胞競合」で肌の質が保たれるという発見
2019年、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)などの研究グループが、マウスの皮膚を使った長期追跡で、表皮幹細胞が隣どうしで「競合」していることを報告しました。ポイントは、基底膜に幹細胞をつなぎとめる接着分子の一つXVII型コラーゲン(COL17A1)です。
- COL17A1を多く持つ幹細胞は、対称分裂(幹細胞が幹細胞を2つ作る)で数を増やし、周囲に広がりやすい。
- ストレスや加齢でCOL17A1が減った幹細胞は、非対称分裂に傾き、徐々に基底層から押し出されていく。
- 若いうちは「質の高い幹細胞が勝ち残る」ことで表皮の恒常性が保たれるが、年齢とともに全体のCOL17A1が減ると競合そのものが弱まり、表皮が薄くなる・傷が治りにくくなるといった老化の特徴が現れる。
さらに同研究では、COL17A1の発現を保つ操作を加えると、マウスの皮膚の老化様変化や傷の治りが改善したこと、既存の化合物の中にケラチノサイトでCOL17A1の発現を高めるものが見つかったこと(Y-27632やアポシニンなど)も示されています。2021年には同グループから、表皮幹細胞の「動きやすさ」にEGF受容体からCOL17A1に至る経路が関わり、加齢でこの経路が弱まると皮膚の再生能力が落ちるという続報も出ています。
ここで注意したいこと|マウスの研究と人の美容は別の話
この研究は基礎研究として高く評価されていますが、美容の文脈で引用されるときには、次の点を切り分けて読む必要があります。
- 主な結果はマウスと培養細胞のものです。ヒトの皮膚でも加齢によるCOL17A1の減少は観察されていますが、「発現を高めればヒトの肌が若返る」ことが臨床試験で示されたわけではありません。
- 報告された化合物(Y-27632、アポシニン等)は研究用の試薬であり、皮膚の若返りを目的として国内で承認された医薬品ではありません。「COL17A1を増やす」とうたう化粧品成分があっても、その根拠の多くは培養細胞レベルの試験です。
- 幹細胞は「多いほどよい」「増やせばよい」とは限りません。細胞競合の研究は、むしろ「質の低い細胞を排除する仕組み」が大切だと示しています。
「幹細胞」をうたう美容施術・製品との関係を整理する
「表皮幹細胞を活性化」「幹細胞で肌を再生」といった言葉は、クリニックの施術説明にも化粧品の広告にも登場します。中身はかなり違うため、以下のように分けて考えると混乱しにくくなります。区分の説明であり、どれかを推奨するものではありません。
| 区分 | 何を使うか | 法律上の位置づけ | 確認したい点 |
|---|---|---|---|
| 細胞そのものを使う治療(自家脂肪由来幹細胞の注入など) | 患者本人などから採取した生きた細胞 | 再生医療等安全性確保法の対象。提供には再生医療等提供計画の届出・受理が必要 | 計画番号、細胞の由来・加工の場所、リスク説明 |
| 細胞の分泌物を使う施術(培養上清液・エクソソーム) | 培養液から回収した液体・小胞 | 現行法の直接の対象外。承認された医薬品は存在しない | 原料の由来、品質管理、未承認である旨の説明 |
| 「幹細胞」を名乗る化粧品 | 植物や動物の培養液由来成分など(生きた細胞は含まれない) | 化粧品(薬機法)。効能表現は化粧品の範囲に限られる | 成分名、「幹細胞そのものではない」という理解 |
| COL17A1などを扱う基礎研究 | マウス・培養細胞 | 研究段階。ヒトへの治療法として確立していない | ヒトでの検証状況 |
幹細胞を用いる治療は再生医療等安全性確保法の規制対象で、提供する医療機関は再生医療等提供計画を厚生労働省に届け出る必要があります。一方、エクソソーム(培養上清液)を用いる施術については、国内で承認された医薬品は存在せず、厚生労働省と日本再生医療学会がそれぞれ注意喚起を出しています。表皮幹細胞の研究が魅力的に語られるほど、「その研究と目の前の施術は同じものなのか」を確認する姿勢が大切になります。
日常でできることは何か|研究が示唆する「幹細胞へのストレス」
研究では、紫外線などのストレスが表皮幹細胞のCOL17A1を減らし、競合で不利になるきっかけになると説明されています。言い換えると、幹細胞を「増やす」ことより、「余計なストレスを減らす」ことが、現時点で根拠のある方向性といえます。具体的には、紫外線対策、乾燥によるバリア機能の低下を防ぐ保湿、睡眠や喫煙といった生活要因の見直しなど、皮膚科学で従来から言われていることと重なります。派手さはありませんが、表皮幹細胞の研究は、基本的なケアの意味を裏付ける形になっています。
よくある質問
Q1. COL17A1(XVII型コラーゲン)は、飲んだり塗ったりして補えますか?
COL17A1は表皮幹細胞が自分で作って細胞膜に埋め込む「接着分子」で、サプリメントに含まれるコラーゲンペプチドや、化粧品のコラーゲン(保湿目的)とは役割が異なります。外から補って幹細胞のCOL17A1が増えることを示したヒトの臨床データは、現時点では確認できません。
Q2. 「表皮幹細胞を活性化する」という施術は、この研究に基づいたものですか?
研究を「参考にした」と説明されることはあっても、この研究で用いられた化合物や手法をヒトの美容目的で行った臨床試験は、一般に確認できる範囲では確立していません。説明を受けたときは、根拠となる論文がヒト対象なのか、どの程度の規模なのかを尋ねてみるとよいでしょう。
Q3. 幹細胞コスメを使えば表皮幹細胞は増えますか?
「幹細胞コスメ」と呼ばれる製品の多くは、植物や動物の細胞の培養液由来成分を配合したもので、生きた幹細胞は含まれていません。化粧品として認められる効能は保湿など限られた範囲で、「幹細胞を増やす」ことを化粧品がうたうことはできません。
Q4. 年齢とともに表皮が薄くなるのは止められないのですか?
加齢そのものを止める方法は確立していませんが、研究では紫外線などの外的ストレスが幹細胞の減少を早める要因として挙げられています。日焼け止めの習慣や保湿は、進行を緩やかにする方向に働く可能性があるとされています。変化の程度には個人差があります。
Q5. この分野の研究はどこまで進んでいますか?
2019年の報告以降、表皮幹細胞の運動性や創傷治癒との関係など、基礎研究の続報が出ています。一方で、皮膚の若返りを目的とした治療法として承認されたものはなく、ヒトを対象にした検証はこれからの段階です。「研究として面白い」段階と「治療として使える」段階は分けて考える必要があります。
参考にした公的情報・一次情報
- AMED「皮膚の若さの維持と老化のメカニズムを解明」(2019年4月)
- AMED「表皮幹細胞による皮膚再生と加齢変化の仕組みを解明」(2021年11月)
- Nature: Stem cell competition orchestrates skin homeostasis and ageing(原論文)
- 厚生労働省「再生医療等提供計画の提出等について」
- 厚生労働省 事務連絡(エクソソーム・培養上清液について)
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「幹細胞」という言葉が出てくる施術や製品について、研究段階のものと実際に受けられるものの違いを整理したい方は、無料・中立の相談窓口もご利用ください。特定の医療機関を紹介するものではありません。
本記事について
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療や医療機関を推奨するものではありません。ここで扱う美容医療・再生医療の多くは公的医療保険が適用されない自由診療で、費用・主なリスク・副作用は医療機関により異なります。効果には個人差があり、個別の診断・治療の可否は医師の診察により判断されます。
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