「ヒアルロン酸は年齢とともに減る」という説明は、化粧品の売り場でも美容クリニックの案内でもよく目にします。ただ、なぜ減るのかを一段掘り下げると、「作られる量が落ちる」だけではなく、「壊れる速さが上がる」という別の要因が近年の研究で注目されていることが分かります。この記事では、作る酵素(HAS)と分解する仕組み(ヒアルロニダーゼ、2013年に日本で報告されたHYBID)の研究を整理し、「塗る・飲む・注入する・細胞を使う」の法律上の位置づけを確認します。特定の製品や施術を推奨する記事ではありません。

皮膚のヒアルロン酸は「1日単位」で入れ替わっている

ヒアルロン酸は糖が鎖状につながった高分子で、体全体の半分ほどが皮膚、主に真皮に存在すると説明されます。水を抱え込む性質が強く、コラーゲン線維やエラスチン線維のすき間を満たして皮膚の厚みや柔らかさに関わる成分と考えられています。

押さえておきたいのは、皮膚のヒアルロン酸の半減期はおよそ1日程度とされ、合成と分解が絶えず並行して進んでいる点です。真皮の量は「作る速さ」と「壊す速さ」のバランスで決まる動的な量であり、加齢による減少もこの2つを分けて見る必要があります。

作る側:ヒアルロン酸合成酵素(HAS)と加齢

ヒアルロン酸を作る酵素HAS(hyaluronan synthase)にはHAS1〜3の3種類があり、真皮の線維芽細胞では特にHAS2が主な役割を担うと報告されています。

加齢との関係では、高齢者の皮膚の線維芽細胞ではHAS2の発現が低下しているとする報告や、紫外線(UVB)を繰り返し受けた皮膚でヒアルロン酸量とHAS2の発現が下がるという報告があります。また、京都産業大学の研究グループは、加齢とともに衰えるヒアルロン酸合成能力を高める方向の基礎研究を進めていることを公表しています。ただし、これらは主に細胞や皮膚組織の解析に基づく知見で、「HASを増やせば肌が若返る」と単純に言えるものではありません。

壊す側:ヒアルロニダーゼと、日本発の発見「HYBID」

従来の理解:HYALとCD44

ヒアルロン酸を分解する酵素として長く知られてきたのがヒアルロニダーゼ(HYAL1、HYAL2など)です。受容体CD44がヒアルロン酸をつかみ、HYAL2で切ってから細胞内でHYAL1がさらに分解する流れが説明されてきましたが、この経路だけでは皮膚の速い入れ替わりを十分に説明できないと指摘されていました。

2013年の報告:HYBID(KIAA1199/CEMIP)

2013年、花王の研究グループは、それまで機能が分かっていなかった遺伝子KIAA1199がヒアルロン酸分解に関わる新しいタンパク質であることを米国科学アカデミー紀要(PNAS)に報告し、HYBID(HYaluronan Binding protein Involved in hyaluronan Depolymerization)と名付けました。国際的にはCEMIPという名称でも呼ばれています。従来のHYAL・CD44の経路とは別に、HYBIDに依存した分解経路が真皮で中心的に働いていることが示されたとされます。

その後の研究では、光老化(紫外線による老化)した皮膚でHYBIDの発現が高く、ヒアルロン酸の減少や臨床的なしわ・弾力低下の所見と相関するという報告が出ています。ヒスタミンなど炎症に関わる物質がHYBIDの発現を上げるとの報告もあります。一方、CEMIPは腫瘍や関節炎など皮膚以外の病態にも関わることが報告されており、「HYBIDをただ抑えればよい」という単純な話ではない点も総説で指摘されています。

まとめると、加齢や紫外線による減少は「HAS2が下がる」と「HYBIDなどが上がる」の両側の変化として理解されつつあります。いずれも研究段階の知見で、ヒトでの介入効果が確立しているわけではありません。

「塗る・飲む・注入する・細胞を使う」は法律上まったく別物

ヒアルロン酸という同じ言葉が使われていても、届く場所や法律上の位置づけは選択肢ごとに大きく異なります。次の表は区分の説明であり、どれかを推奨するものではありません。

選択肢主に届く場所法律上の区分確認したい点
塗る(化粧品・医薬部外品)角層表面〜角層内が中心。低分子化(加水分解ヒアルロン酸)は浸透をうたうものもある薬機法の化粧品・医薬部外品。効能表現は範囲が限定される「真皮まで届く」「増える」等の表現は化粧品の効能範囲を超えていないか
飲む(サプリ・機能性表示食品)消化管で分解・吸収される。皮膚への到達は研究途中食品。機能性表示食品は届出制届出内容と広告の表現が一致しているか、治療効果を示唆していないか
注入する(ヒアルロン酸フィラー)真皮〜皮下に物理的に注入し、ボリュームを補う承認を受けた医療機器を医師が使用する医療行為。自由診療使用製品が国内承認品か、リスクと合併症の説明があるか
細胞を使う(自家線維芽細胞など)細胞を移植し、細胞自身の働きに期待する再生医療等安全性確保法の対象。提供計画の届出等が必要計画番号の開示、認定再生医療等委員会の審査を経ているか
分泌物を使う(培養上清液・エクソソーム)細胞が出した成分を投与する再生医療等安全性確保法の対象外。承認された医薬品は存在しない「幹細胞治療」と混同させる表現がないか、未承認である旨が説明されるか

注入用のヒアルロン酸は架橋(分解されにくく加工)した製剤で、承認された医療機器として流通しています。細胞を移植する治療は再生医療等安全性確保法の枠で提供計画の届出等が求められます。幹細胞培養上清液やエクソソームをうたう施術は細胞そのものを使わないため同法の対象外で、承認された医薬品は存在しません。厚生労働省は2024年7月にこれらの安全性や広告に関する注意を事務連絡として発出しています。「ヒアルロン酸を増やす」という説明がどの区分の話なのかを切り分けて読むことが大切です。

情報を見比べるときに確認したい点

  • 研究と製品は別:HYBIDやHAS2の研究は老化の仕組みを説明するもので、特定の化粧品や施術の効果を証明するものではありません。研究名を引いた宣伝には、その製品自体のヒト試験があるかを確認します。
  • 自由診療の費用と契約:注入も細胞を使う治療も原則保険適用外です。総額、回数、解約条件を書面で確認します。
  • 個人差:どの選択肢も効果や持続には個人差があります。「必ず」「永久に」といった断定表現は医療広告ガイドライン上も問題となりうる表現です。

よくある質問

Q1. ヒアルロン酸は何歳ごろから減り始めるのですか?

「◯歳で半分になる」といった数字が広告で使われることがありますが、出典が明示されていないことが多く、測定方法や部位で値は大きく変わります。研究で一致しているのは加齢と紫外線曝露で真皮のヒアルロン酸が減る傾向がある点で、具体的な年齢や割合には個人差があります。

Q2. HYBIDを抑える化粧品や薬はありますか?

HYBIDの発現や働きに影響する成分を探索する研究は企業や大学で行われていますが、2026年9月時点で、HYBIDを標的として承認された医薬品はありません。化粧品に配合された成分が「HYBIDを抑える」と説明される場合も、その多くは細胞実験レベルの知見であり、ヒトの肌での効果とは区別して受け止める必要があります。

Q3. 塗るヒアルロン酸は真皮まで届きますか?

一般的な高分子ヒアルロン酸は角層の表面で水分を保つ働きが中心とされます。低分子化したタイプで角層内への浸透を示す報告はありますが、真皮のヒアルロン酸量を増やすことを化粧品としてうたうことはできません。真皮に直接届けるのは、医師が行う注入などの医療行為の領域です。

Q4. 注入したヒアルロン酸も体内で分解されるのですか?

注入用の製剤は架橋によって分解されにくく加工されていますが、時間とともに徐々に分解・吸収されます。持続期間は製剤の種類、注入部位、個人差によって異なるとされ、医師から製品名と想定される持続期間、起こりうる合併症の説明を受けることが大切です。

Q5. 「幹細胞でヒアルロン酸を増やす」という説明は正しいのですか?

線維芽細胞や幹細胞がヒアルロン酸を産生する能力を持つことは基礎研究で知られていますが、移植後にヒトの真皮でどの程度増え、見た目の変化につながるかは検証途中です。細胞を使う治療は再生医療等安全性確保法の届出等が必要で、培養上清液・エクソソームは対象外かつ承認医薬品がない点も踏まえて区分を確認してください。

参考にした公的情報・一次情報

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まとめ

皮膚のヒアルロン酸は1日単位で入れ替わる動的な成分で、減少は「HAS2の低下」と「HYBIDなどの上昇」の両側から理解されつつあります。これらは仕組みの研究であり、特定の製品や施術の効果を保証するものではありません。「塗る・飲む・注入する・細胞を使う」は法律上の区分も届く場所も異なるため、承認や届出の有無、個人差と費用の説明があるかを切り分けて確認することが出発点になります。

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本記事について

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療や医療機関を推奨するものではありません。ここで扱う美容医療・再生医療の多くは公的医療保険が適用されない自由診療で、費用・主なリスク・副作用は医療機関により異なります。効果には個人差があり、個別の診断・治療の可否は医師の診察により判断されます。

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