「毛髪再生医療」という言葉を目にする機会が増えました。iPS細胞や毛包オルガノイドといった研究段階の技術と、実際に医療機関で提供されている施術とが同じ言葉でまとめて語られることも多く、どこまでが研究で、どこからが現在受けられる医療なのかが分かりにくくなっています。この記事では、両者の線引きを整理し、情報を読むときに確認したい視点をまとめます。
「毛髪再生医療」が指す範囲は一つではない
同じ呼び方をされていても、内容は大きく二つに分かれます。すでに医療機関で提供されている施術と、まだ実験室や動物実験の段階にある研究です。両者は成熟度も、法的な位置づけも異なります。
現在、医療機関で提供されているもの
自身の血液から調製した多血小板血漿(PRP)を頭皮に注入する方法、幹細胞の培養上清液や成長因子を用いる方法などがあります。このうち、自身の細胞を加工して用いるものは再生医療等安全性確保法の対象となり、提供にあたって治療計画の届出などの手続きが求められます。一方、幹細胞培養上清液やエクソソームを用いる施術は現行法上この枠組みの外にあり、この用途で承認された医薬品は存在しません。効果の感じ方には個人差があり、すべての人に同じ結果が生じるものではありません。
まだ研究段階にあるもの
毛包そのものを新しくつくり出す技術は、現時点では研究段階です。マウスを用いた実験で毛の発生が確認された報告はありますが、ヒトを対象とした一般診療として確立した治療にはなっていません。ニュースで研究成果を目にしても、それが今日クリニックで受けられるものとは限らない点に注意が必要です。
毛包オルガノイドとは何か
オルガノイドとは、細胞を三次元的に培養してつくる「臓器のミニチュア模型」のことです。毛髪の領域では、毛の生え変わりを司る毛乳頭細胞と、毛をつくり出す上皮系の細胞を組み合わせ、体内で毛包ができるときと似た構造を試験管内で再現する試みが進められています。
研究上の意義は二つあります。ひとつは、将来的に毛包そのものを移植する再生技術につながる可能性。もうひとつは、育毛成分の作用を調べるための評価モデルとして使える点です。後者は臨床応用より手前の段階でも、研究を前に進める役割を果たします。
実用化までに残されている課題
研究が進んでも、そこから一般診療に至るまでには複数の段階があります。培養した細胞が長期間にわたって安全であることの確認、必要な量を安定した品質で用意する製造工程の確立、毛の向きや太さといった見た目の自然さの制御、そして臨床試験による有効性と安全性の検証です。これらを経て承認に至るまでには相応の時間がかかります。「近い将来に実現する」という表現を見かけたときは、どの段階の話をしているのかを確かめる姿勢が役立ちます。
情報を読むときに確認したい3つの視点
- 対象は動物かヒトか:マウスでの成果とヒトでの結果は別物です。記事の元になった研究がどちらかを確認します。
- 研究か、提供中の医療か:研究成果の紹介と、施術の案内が同じページに並んでいることがあります。両者を分けて読みます。
- 誰が発信しているか:学術機関や公的機関の発表か、施術を提供する側の発信かによって、書かれ方の傾向は変わります。
よくある質問
Q. iPS細胞を使った発毛治療は、いま受けられますか?
A. 一般診療として確立した治療には至っていません。研究段階の技術であり、時期を断定できる情報は現時点でありません。
Q. いま提供されている施術は受けない方がよいのでしょうか?
A. 受ける・受けないを一律に判断できるものではありません。どの法的枠組みで提供されているか、想定される効果と限界、副反応、費用について説明を受け、納得したうえで判断することが基本になります。
Q. 研究が進めば誰でも髪が戻りますか?
A. 薄毛の背景には遺伝的要因、ホルモン、頭皮の状態、生活習慣など複数の要素が関わります。ひとつの技術がすべての状態に等しく当てはまるとは限らず、結果には個人差があります。
関連記事
治療を検討している段階でも、情報の整理だけを目的とした段階でも構いません。中立の立場での情報提供をご希望の方は、お問い合わせページからご相談いただけます。
この記事について
本記事は、厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)などが公表する一次情報をもとに、再生医療ガイド編集部が作成しています。当サイトは医療機関ではなく、特定の治療法や医療機関を推奨するものではありません。効果には個人差があり、治療を受けられるかどうかや適応の判断は、医師の診察に基づいて行われます。記事の作成方針と参照範囲については運営者情報・編集方針をご覧ください。内容の誤りにお気づきの場合はお問い合わせよりご連絡ください。
最終更新日: