近年、美容・エイジングケアの分野で「老化細胞(セネッセント・セル)」という言葉を目にする機会が増えました。分裂を止めたまま組織にとどまる細胞のことで、肌のハリやくすみとの関連が研究されています。一方で、これは現在も研究が進行中のテーマであり、確立した美容治療として提供されているものではありません。ここでは分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
老化細胞(セネッセント・セル)とは何か
細胞は分裂の限界やDNAの傷などをきっかけに、分裂を停止した状態になることがあります。この状態を「細胞老化」と呼び、死なずに組織に残り続ける細胞が老化細胞です。がん化を防ぐ仕組みとしての側面もあると考えられており、単純に「悪いもの」と決めつけられるものではありません。
SASPという現象
老化細胞は、炎症性サイトカイン(IL-6など)やコラーゲンを分解する酵素(MMP)といった物質を周囲に放出することが知られています。これはSASP(細胞老化関連分泌現象)と呼ばれます。真皮では線維芽細胞がコラーゲンやヒアルロン酸をつくってハリ・弾力を支えていますが、老化した線維芽細胞は産生機能が落ちるうえ、SASPによって周囲の正常な細胞の働きにも影響を与えると報告されています。しわ・たるみ・くすみといった見た目の変化との関連が指摘されているのは、こうした背景があるためです。
「老化細胞を取り除く力」に関する近年の研究
体には元々、除去する仕組みがある
老化細胞はマクロファージなどの免疫細胞によって処理されることが分かっています。さらに資生堂とマサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所の共同研究では、皮ふの免疫細胞の一種であるCytotoxic CD4+ T細胞(CD4 CTL)が老化した線維芽細胞を選択的に除去していることが報告されました(Cell誌、2023年)。同研究では、50代から70代にかけて老化細胞が必ずしも増え続けるわけではないことも示されており、「加齢=老化細胞が一方的に蓄積する」という単純な図式ではないことがうかがえます。
セノリティクス(老化細胞除去薬)の現在地
老化細胞を選択的に取り除くことを狙った薬剤は「セノリティクス」と呼ばれ、国内外で研究が進められています。ただし、現時点でこれらは基礎研究や臨床試験の段階にあり、美容・エイジングケアを目的として承認された医薬品は存在しません。動物実験で良好な結果が出た段階の報告も多く、ヒトでの有効性や安全性がどこまで確認されているかは、研究ごとに大きく異なります。「老化細胞に効く」といった表現を見かけた際は、それが何を根拠にした話なのかを確認する姿勢が大切です。
情報に接するときに持っておきたい視点
- 試験管内や動物での結果か、ヒトでの結果かを区別する
- 研究段階の知見と、実際に受けられる医療行為を混同しない
- 幹細胞を用いる治療は再生医療等安全性確保法の規制対象であり、提供計画の届出が必要である
- エクソソーム(培養上清液)は現時点で承認された医薬品が存在しないため、説明内容を慎重に確認する
- 変化の感じ方には個人差があり、同じ方法でも結果が同じになるとは限らない
日常生活の面では、紫外線対策や睡眠・食事といった基本的なケアが細胞へのダメージを減らすうえで意味を持つと考えられています。特別な方法を探す前に、土台を整えることも選択肢のひとつです。
よくある質問
Q. 老化細胞を減らせば若返るのですか?
A. 老化細胞の蓄積と組織の変化に関連があることは複数の研究で示されていますが、ヒトの見た目の若返りにどこまで結びつくかは検証途上です。断定できる段階ではありません。
Q. 「老化細胞に着目した」とうたう化粧品は効果がありますか?
A. 化粧品は医薬品とは法的な位置づけが異なり、表示できる効能の範囲も定められています。研究テーマとして老化細胞に着目していることと、製品にその作用が確認されていることは別の話です。根拠の中身を確認することをおすすめします。
Q. クリニックで受けられる治療はありますか?
A. 老化細胞の除去そのものを目的とした確立された美容医療は、現時点では一般的ではありません。関連する分野として再生医療が挙げられますが、内容や法的な位置づけは治療ごとに異なるため、個別に説明を受けて判断してください。
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